テンポで変わる音楽

音楽は「時を彩る」ものです。その中でも「時を刻む」ということは音楽を構成する要素として基本的なものです。私たちが生きてきた中で最も馴染みのある刻み方は「4拍子」です。4拍子とは、「四分音符」といわれる音符が4つ並んだ長さです。「ワン・ツー・スリ・フォー」と刻める長さです。「ワン」や「ツー」のそれぞれの長さが四分音符です。

この4拍子は、一定のテンポで刻まれることが通例であり、私たちも心地よいと感じます。テンポがしっかりとしていなければ、「不安定だ」と感じることになるのです。その基本的な拍子をどのような速さで刻むのか、というものが「テンポ」です。テンポは一分間に何回四分音符を「打つ」ことができるのか、という指標で表すことができます。テンポ120というのは、一分間に四分音符が120回打てるということです。テンポ60であれば60回です。それはちょうど時計の「秒針」が進む速さと合致します。音楽を構成する要素の中でこの「テンポ」はもっとも重要であり、その曲の演出で途中から早くしたり遅くしたりすることはあっても、基本的には一定的に刻むものです。

音楽はすべて「音符」に置き換えることができますが、そのようにして組まれたものをどのようなテンポで演奏するか、または再生するかで、その曲に要する「時間」が変わるのです。音楽は時間を彩るものですが、その時間を「支配」するものがテンポであることは間違いありません。正確なテンポが刻まれた演奏や曲は、私たちに安心感とともに心の躍動、そしてそれが体の動きを引き起こし、その体の動きが大勢の聴衆で重なったとき、大きなうねりとなって演奏会場などを席巻するのです。まさに時を支配し、その時を共有する「人」を支配するようなものです。テンポを考えることはその音楽と向き合うために最も重要なことであり、決してないがしろにしてはいけないことなのです。

その曲のテンポが「いくつなのか」ということはその曲を聴くときには考えないものです。ただ心地良いビートが流れている、という感覚が体と心を満たします。ですが、テンポがよれたりずれたりして、一定的でない場合、私たちは一瞬でそれがわかります。そしてその瞬間に音楽に没頭していた心がどこか冷めてしまうのです。それが「テンポ」であり、音楽において、曲において重要である理由です。
オーケストラなどの場合、アンサンブル全体のテンポを司るのは「指揮者」です。「コンダクター」とも言われます。音楽をコンピューターなどで制作する場合、テンポを司る部分を「コンダクタートラック」と呼んだりもします。テンポを司ることは「曲を支配すること」です。小編成のアンサンブルであれば、コンダクターは打楽器の奏者であったりするものです。「リズム」を正確に刻むことで、アンサンブルに活力を与えるのです。

テンポは音楽の根幹であり、それが安定していれば私たちはその音楽を心地よく聴くことができます。音楽の作り手は、「テンポをどうするか」ということを考えることでその曲をどのようにでも変化させることができるのです。テンポは時間を刻む音楽の根幹、まさに「核」なのです。音楽を楽しむときも、よく聴いてみてください。心地いい音楽はテンポが一定なのです。

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